loading...

小さな旅の記憶

PROFILE 米田有希(よねだあき)

1978年、徳島県出身。10代で雑誌「mc Sister」の専属モデルとしてデビュー後、幅広いジャンルの雑誌やCMなどで活躍し、一男三女のママに。現在はスペイン・バルセロナに在住。ナチュラルな装いや素顔、ライフスタイルに憧れるファンが多数。自身が手がけるブランド「Omas Hände」ではデザイナーとしても活躍中。スペインでの日々を綴るブログ(http://www.omashande.com/diary/)にも注目です。akiyoneda

先日、ようやく主人の休みが取れたので、住まいのあるバルセロナから南仏・プロヴァンスまで車で旅行へ行ってきました。
車で4時間半くらいだったでしょうか。目的地は、サンレミ・ド・プロヴァンスという小さな村。ゴッホが療養していたことでも知られるところです。

我が家は6人家族で、プラス犬が一匹。ヨーロッパのホテルは、犬も宿泊可能なところが多いので、我が家は基本的に犬も連れて旅行をします。
ただ、6人部屋を探すのが大変。だいたい、二部屋に別れてしまいます。でも、今回は、6人用で犬もOKなレジデンスが見つかりました。
こじんまりとした、贅沢ではない小さなレジデンスでしたが、我が家には十分。小さなキッチンもあり、何よりも、テラスの先に大きな芝生のお庭が広がっていて、その上には広い広い空、その先にはアルピーユ山脈が広がっている最高のロケーションでした。

短い日数の滞在でしたが、のんびりしながらも、とても充実していました。
ある日の午前中は、マルシェに出掛け、またある日はゴッホが過ごしたサン・ポール・ド・モーゾール修道院を見に行ったり、旧市街を探索したり。そしてまた別の日は、サンドイッチを作って車で1時間半ほどのところにあるカマルグ自然公園へ足を伸ばし、野生のフラミンゴを見たり。そして毎日、レジデンスに帰ると、プールで遊びました。
ある日の夜は、レジデンスから歩いてすぐのところの闘牛場で闘牛が行われると聞いて家族で行ってきました。ここの闘牛は、スペインのもののように牛を殺さず、角にリングを引っ掛けるゲームのようなものでした。そこで、観客も参加できる時間があったのですが、地元の人に混ざってなんと主人も参加。家族みんな大爆笑でした。

滞在中、一度も外食をせず、今回キッチンの電気コンロが壊れていたので料理は出来ませんでしたが、朝はパンやフルーツ、夜はスーパーで買ったお惣菜をテラスで食べました。
我が家にとっては、すてきなレストランでのディナーよりも、短い期間借りたおうちでの、のんびりごはんが何よりも幸せなこと。
ふと、12年前に2ヶ月間過ごしたブエノスアイレスでのことを思い出したり。そのときも、短期でマンションを借りて、おうちでごはんを作って食べていました。
なんだか、旅先で、普通に食卓を囲むと、いつもは当たり前だと思っていたことが、不思議と本当に心から幸せだと思えるのです。
夕暮れの変わりゆく美しい空の下、みんなでごはんを食べながら、当たり前の幸せに気づかせてくれるのが、旅のいいところだ、としみじみと思いました。

夕食のあと、日が暮れると、家族で芝生に寝転がって、毎晩夜更かしして星空を眺めました。みんなして、いくつもの流れ星を見ました。
何度も、その星空を写真に撮ろうとしましたが、普通のカメラでは全く写すことができません。仕方がないので、ただただ目で見て眺めました。
今まで見たことがないような、本当に美しい星空でした。

じっと、瞬く星空を眺めていると、さっきのごはんのときにブエノスアイレスにトリップしたように、今度は函館の夜景を思い出しました。
わたしは母の故郷、函館で生まれて、今も祖母や親戚が函館で暮らしています。
幼いころから、何度も函館には訪れていますが、初めて函館山からの夜景を見たときには、「こんなに綺麗なものがこの世にあるんだ」と、こどもながらに感動したのを覚えています。
結婚してこどもたちが産まれてからも、家族で何度か函館を訪れました。
わたしがそうだったように、夜景を見て「うわあ~!」と声を上げるこどもたち。
つるつるに凍結した道路をなんとか踏ん張って歩いたり。
おばあちゃんやいとこたちと朝市や赤れんが倉庫へ行ったり。
お気に入りの函館市北方民族資料館は滞在中2回は行くところ。
優しい函館の人たち。外から帰ってくると、「や~、寒かったっしょ、はやくこっち来てあったまりなさい」と、ストーブのところに連れて行ってくれます。

そんな函館で育ったわたしの母は、わたしが小さなころからいつも自分のことは後回し。いつでも家族の世話をして、自分のものは全然買わないし、近場以外、観光のための旅行になんて滅多に行ったためしがありませんでした。
以前、母がわたしに、「カナダに行って、きれいな景色を見たいけれど、行けないから、すてきなBGMがついたカナダの景色のDVDを買おうと思う」と言ったことがありました。
それを聞いてわたしは、「実際に見るのとはまるで違う!どんなに綺麗な写真や映像でも、自分の目で実際に見ることには敵わない。」と、力説しました。だって、本当にそうなんです。どんな景色でも、家のソファに座ってお煎餅を食べながら見るんじゃなくて、その場所で風や音を感じながら、その土地の食べ物を食べながら、においを嗅ぎながら、実際に見ることにはそんな母でしたが、2、3年前に、ずっと行きたがっていたカナダではなく、フランスへ旅行へ行きました。母はそこで、街の広場でクリスマスツリーのもみの木を売っているのを見たそうです。母の子供のころも、クリスマスが近づくと、同じように広場でもみの木を売っていたそうで、それを思い出して嬉しかった、と話してくれました。

旅をすると、そうして、遠い昔まで時間の旅もできるのが不思議です。
旅の経験がどんどん昔の記憶とリンクして、繋がっていくのです。

さて、そんな記憶の旅を一通り終えて、また南仏の星空を眺めます。
芝生の上、川の字ならぬ、大河のように並んだ家族。こんなにきれいな景色を、大好きな人たちと共有できることの幸福。
星空は写真には写らなかったけれど、それで良かったのかもしれません。
わたしにとっては、家族と一緒に、この目で見ているものが、どんなカメラで撮ったものよりも美しいことは確かなのです。

本ページ内掲載の内容は2014年10月現在のものです。

 

ページトップへ戻る